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大阪地方裁判所 昭和52年(行ウ)43号 判決 1979年3月30日

原告 更生会社日本カロライズ工業株式会社更生管財人 中筋一朗

被告 西淀川税務署長

代理人 井野口有市 根本真 山中忠男 ほか四名

主文

1  原告の本訴請求のうち、被告が昭和五一年六月三〇日付でなした更生会社カロライズ工業株式会社の昭和四九年五月二三日から同年一〇月三一日までの事業年度分の法人税についての更正処分中、所得金額のうち金四四六六万二二八二円を超える部分の取消を求める訴えを却下する。

2  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和五一年六月三〇日付で原告に対してなした更生会社日本カロライズ工業株式会社の

(一) 昭和四九年四月一日から同年五月二二日までの事業年度分の法人税について、課税留保金額を金一六六一万一〇〇〇円とする更正処分および過少申告加算税額を金一一万二〇〇〇円とする賦課決定処分

(二) 昭和四九年五月二三日から同年一〇月三一日までの事業年度分の法人税について、課税留保金額を金四七九一万四〇〇〇円、所得金額を金四五六九万二二八二円とする更正処分中、課税留保金全額および所得金額のうち金四四六六万二二八二円を超える部分ならびに過少申告加算税額を金三一万六八〇〇円とする賦課決定処分

(三) 昭和四九年一一月一日から昭和五〇年一〇月三一日までの事業年度分の法人税について、所得金額を金八三六三万三六四九円とする更正処分中、金七九六四万二六四九円を超える部分および過少申告加算税額を金一二万五四〇〇円とする賦課決定処分中、金四万五六〇〇円を超える部分はいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  本案前の答弁

主文1と同旨

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  請求原因

1  原告は、更生会社カロライズ工業株式会社(以下本件更生会社という。)にかかる大阪地方裁判所昭和四六年(ミ)第六号会社更生手続開始申立事件につき、同裁判所から昭和四七年三月三一日付決定をもつて中谷洋一とともに更生管財人に選任せられ、同裁判所の管財人職務分掌の定めにより「更生会社の訴訟行為その他これに類する法律事務及び法律問題の処理に関する事項」を分掌する者である。

2  更生管財人中谷洋一は、本件更生会社の昭和四九年四月一日から同年五月二二日までの事業年度分(以下一期分という。)、同年五月二三日から同年一〇月三一日までの事業年度分(以下二期分という。)および同年一一月一日から昭和五〇年一〇月三一日までの事業年度分(以下三期分という。)の各法人税について、別表一の各「確定申告」欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は昭和五一年六月三〇日で右各期分の法人税について同表の各「更正・賦課決定」欄記載のとおりの更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分をなし(以下本件各処分という。)、その旨更生管財人中谷洋一および本件更生会社代表取締役大前寛に通知した。

そこで原告は、昭和五一年八月二七日本件各処分について国税不服審判所長に対し審査請求をなしたところ、同所長は、昭和五二年三月三一日右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をなした。

3  しかしながら、本件各処分には以下のような違法がある。

(一) 留保金課税(一期分、二期分)について

被告は、本件更生会社が株主名簿上法人税法二条一〇号に規定する同族会社にあたるとして、本件更生会社の一期分および二期分における各留保金額についていずれも同法六七条を適用して税額を加算している。

しかしながら、本件更生会社が形式上法人税法二条一〇号の同族会社にあたることは事実であるが、同法六七条の留保金課税の趣旨は、同族会社においては会社を支配する者が少数で、互いに特殊な関係を有しているため、会社の利益を配当にまわすか、留保するかを自由に選択・決定することができ、その結果、法人税と株主個人の所得税の負担について容易にこれを操作し、所得税の累進税率の適用を回避することが可能であるところからこれに対処するため税率を累進させるにあるというべきところ、同族会社について会社更生手続が開始された場合はもはや少数の株主が会社の利益を自由に処分し得る関係にはないから、その留保金額について同条の適用はないものというべきである。すなわち、更生会社は裁判所の監督のもとに更生管財人が更生という目的のためにこれを支配し運営する特別の法人というべきものであつて、たとえその株主構成が形式的には同族会社にあたるような会社であつても、少数の株主がこれを支配し、会社の利益を自由に処分するようなことはおよそ考えられないところであるから(会社更生手続上、株主の地位は一番劣後している。会社更生法一二九条、一五九条、二〇五条、二二八条)、会社更生手続が開始された時点から当該同族会社は法人税法二条一〇号にいう同族会社でなくなつたものと解すべきである。

これを本件更生会社についてみると、原告ら管財人は、更生手続開始後元代表者泉正五に対し、今後管財人の経営に一切口をさしはさまないよう申し入れ、その旨の誓約を徴するとともに、株券は全部原告に保管させ、会社の経営は専ら原告と相管財人とが裁判所の監督のもとに独自の判断でこれを行ない、株主総会は更生計画が認可された後初めて開かれた昭和四九年一二月三〇日まで一度も開かれなかつた。そして、原告および相管財人が利益金を留保したのは、一期分については更生計画が認可されるまでの間利益を社外に流出させたり、設備投資にまわすことが許されないからにほかならず、二期分については更生計画において、「この計画に基く弁済終了に至るまで株主の配当は行わない。」と定められていたからである。従つて、本件更生会社において、少数の株主が会社を支配し、利益を留保するか配当するかを自由に操作し得る状況になかつたことは明らかである。

以上の理由により、本件更生会社の一期分および二期分の各留保金に法人税法六七条を適用した本件各処分は違法である。

(二) 役員賞与の益金算入(二期分、三期分)について

被告は、本件更生会社の代表取締役大前寛、同吉田司に対する二期分における役員賞与計金一〇三万円および三期分における同金三九九万一〇〇〇円について、法人税法三五条一項を適用してこれを益金に算入している。

しかしながら、本件更生会社の場合、役員といつても通常の法人における役員とは全く異なつた地位にあり、右各処分はかかる特殊性を看過した違法があるものというべきである。すなわち、前記大前、吉田両名が代表取締役に選任された経緯は、原告および相管財人が右両名を代表取締役とする旨の更生計画案を提出し、関係人集会の議を経て、裁判所の許可決定を得たことによる。従つて、右両名は、通常の株式会社における代表取締役のように株主総会を経て取締役会で選任されたものではない。また、会社更生法二一一条三項によれば、「更生計画においては、会社の事業の経営並びに財産の管理及び処分をする権利を取締役に付与する旨を定めることができる。」と規定されているところ、本件更生会社の更生計画は取締役に対してかかる権利付与を認めてはいない。このため、右両名は、自分が代表取締役であるという意識すらなく、原告および相管財人も両名を代表取締役として遇したこともない。また、右両名に対する役員賞与は、他の二名の取締役と同一の基準によつたものであり、ただ若干異なるのは両名が年長であることを考慮したことだけである。

以上のような本件更生会社の代表取締役の性格からすると、これに対する役員賞与は通常の取締役に対する委任もしくは準委任に基づく報酬とはいえず、まして利益処分ということもできないのであつて、右賞与は管財人の職務を補佐する労務に対する対価というべきものということができる。従つて、これに法人税法三五条一項を適用した本件各処分は違法である。

4  よつて原告は請求の趣旨記載の判決を求める。

二  被告の本案前の主張

原告は、被告のなした二期分の更正処分中、所得金額について、自己の確定申告額以下に取消すことを求めている。しかしながら、申告額以下に取消を訴求するためにはこれにつき国税通則法二三条一項所定の更正の請求およびそれに続く行政上の救済手続を経ることが必要である(同法一一五条一項)。しかるに、本件において右の手続はとられていない。従つて、右部分の訴えは不適法である。

また、原告は、申告額の範囲内における所得金額および法人税額を自認しているものというべきであるから、申告額以下に取消を求めるにつき、訴えの利益を有しない。

三  本案前の主張に対する原告の反論

原告は、二期分における賞与引当金繰入限度超過額を金二〇三四万八二五〇円と申告したところ、被告は当期における更正処分においてこれを金一八四二万四五〇〇円に減額し、反対に本訴において争いとなつている役員賞与損金計上分金一〇三万円と、本訴において争いのない減価償却超過額金六四万三九〇二円とを加算し、都合差引金二四万九八四八円を減算した。従つて原告はこの限りにおいて更正処分によつて利益を受けたことになるが、原告としては賞与引当金の繰入限度超過額が金一八四二万四五〇〇円でよいことは全く気付かないところであるから、一年以内に更正の請求をしようにもこれをすることができなかつた。原告としては更生会社の形式的な代表取締役に対する一時金は当然に損金に算入されるとして申告の時から一貫して主張して来たものであつて、かかる事実関係のもとにおいて原告が役員賞与金一〇三万円の益金加算を争うことができなくなつてしまうというのであれば、誠に不可解というほかはない。

四  請求の原因に対する被告の答弁および主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3(一)  同3(一)の事実のうち、被告が本件更生会社の一期分および二期分における各留保金額について、法人税法六七条を適用して更正処分をしたこと、本件更生会社が同族会社であること、更生手続開始から更生計画が認可された後の初めての株主総会が開催された日(昭和四九年一二月三一日である。)に至るまでの間は株主総会は開催されなかつたこと、本件更生計画に原告主張の内容の定めがあることは認め、その余は不知、その主張は争う。

(二)  同3(二)の事実のうち、被告が本件更生会社の二期分および三期分における各役員賞与金について、法人税法三五条一項により益金に算入されるとして更正処分をしたこと、本件更生会社の代表取締役が大前寛、吉田司の二名であることは認め、その余は不知、その主張は争う。

4(一)  本件更生会社の各係争事業年度の所得金額等の内訳は別表二記載のとおりであり、次に述べるように、原処分には何ら違法はない。

(二)  留保金課税について

会社更生手続の開始以降においては株主の権限がほとんど停止しているとしても、株主そのものの地位まで喪失するわけではなく、更生会社なるが故に同族会社でないとする法的根拠もない。また、法人税法六七条の規定の適用について、会社更生法の適用を受けている会社を排除する旨の別段の定めもない。従つて、被告が本件更生会社に対し留保金課税をした原処分には何らの違法はない。

(三)  役員賞与について

法人税法上の規定によれば、役員とは、法人の取締役、監査役、理事および清算人その他一定の条件に該当する者をいい(法人税法二条一五号)、また、法人の役員で社長、代表取締役、専務取締役、常務取締役その他一定の条件に該当する役員は使用人兼務役員の範囲に含めないこととされており(同法三五条五項、同法施行令七一条一項)、更生会社についてこれと異なる取扱いを定めた特別の規定もない。これらのことからすれば、本件更生会社の代表取締役に会社更生法二一一条三項および同法二四八条の二の規定による権限が与えられていないとしても、右代表取締役が本件更生会社の代表取締役として適法に選任されている以上、法人税法上の役員に該当することは明らかであり、また、使用人兼務役員にも該当しないことが明白である。従つて、本件更生会社が二名の代表取締役に支給した賞与について、被告が法人税法三五条一項の規定により各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入しないとして更正をした原処分には何らの違法はない。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因1、同2の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  そこでまず、被告の本案前の主張について検討する。

本件更生会社の更生管財人中谷洋一が同会社の二期分の所得金額を金四五九四万二一三〇円として確定申告をしたことは前叙のとおりであり、<証拠略>によれば、右確定申告に対して被告は役員賞与金一〇三万円および減価償却超過額金六四万三九〇二円を加算し、賞与引当金繰入限度超過額を金一九四二万四五〇〇円に減額し、都合差引金二四万九八四八円を減算する更正処分(留保金額を除く。)をしたことが認められる。原告は、右更正処分のうち、役員賞与が損金に算入されるべきであるとして、同更正処分が認定した所得金額金四五六九万二二八二円より役員賞与金一〇三万円を控除した金四四六六万二二八二円を超える部分の取消を求めているが、被告の前記更正処分は、原告の申告所得金額を一部取消すものというべきであり、従つてこれを取消せば、結局原告の前記申告所得額が復活することになるから(なお、原告が国税通則法二三条一項による更正の請求をしていないことは当事者間に争いがなく、申告書の記載が錯誤により無効であるとの原告の具体的主張立証も存しない。)、結局のところ、原告の右取消の訴えの利益がないものというべきである。

三  そこで、以下一期分および二期分の各留保金ならびに三期分の役員賞与金に対する各課税の違法性の存否について検討する。

1  留保金課税について

被告が本件更生会社の一期分および二期分における各留保金額について法人税法六七条を適用して更正処分をしたこと、本件更生会社が同法二条一〇号の同族会社に該当することはいずれも当事者間に争いがない。

ところで原告は、更生手続が開始された後の同族会社については法人税法六七条の規定は適用がない旨主張し、その理由として、同条の立法趣旨は配当所得による所得税を社内留保により免れることが自由になし得るような会社に対し法人税法上の特別税率により課税をし、これを是正しようとするものであるところ、更生会社においては裁判所の監督のもとに更生管財人が更生という目的のためにこれを支配し運営するものであるから、その留保金額について右に述べた立法趣旨による配慮をしなけれならない必要性は存しない、と主張する。

よつて検討するに、なるほど法人税法六七条が同族会社の留保金額についてのみその適用があることからすると、その立法趣旨が原告の主張するように、個人所得税の負担を免れんとするための不当留保所得を是正しようとすることにあることは否定できないところである。しかしながら、右規定の文言からも明らかなように、同条は、同族会社の一定額を超える留保金額についてこれが不当留保かどうかを問うことなく一律に所定の金額に応じた特別税率を課すこととしているものであつて、そのことからすれば、本来の立法趣旨を不当留保所得の是正ということにのみ求めるのはいささか早計というべきである。むしろ、右に述べたような本条の規定の文言およびこれが同族会社の留保金についてのみその適用があり、非同族会社についてはたとえ不当留保がなされたとしてもこれには適用されないこととされていることからすると、本条の規定の立法趣旨としては不当留保所得を是正することと併せて、同族会社と個人企業との税負担の公平を図つているものというべきである。

してみると、本件更生会社の各留保金が、その一期分については、更生計画認可決定前においてやむを得ず留保したものであり、二期分については、更生計画に従い留保したものであつて、株主による個人所得税の負担を免れんことを意図した不当留保所得とはみられない性質のものであるとしても、それが後日更生会社の設備投資に充てられ、あるいは更生債権者に対する弁済に充てられるなどして結局更生会社たる同族会社の利益となる性質のものである以上、前記の個人企業との税負担の公平という見地からみて、これを留保した時点において法人税法六七条を適用する必要性はなお失われていないものというべきである。従つて、この点に関する原告の主張は失当というべきである。

2  役員賞与について

被告が本件更生会社の代表取締役大前寛、同吉田司に対する三期分における役員賞与金三九九万一〇〇〇円について、法人税法三五条一項を適用してこれを益金に算入することとし、更正処分をしたことは当事者間に争いがない。

ところで原告は、本件各役員賞与金には法人税法三五条一項の適用はなく、右賞与金は損金に算入されるべきであると主張し、その理由として、本件更生会社の前記両代表取締役は、更生手続によつて選任されたものであり、また会社の事業の経営、財産の管理処分をする権限を有しないから、これに対する賞与は管財人の職務を補佐する労務に対する報酬とみるべきものである、と主張する。

よつて検討するに、<証拠略>によれば、本件更生会社の代表取締役大前寛、同吉田司の両名は、更生計画案において共同代表取締役に指名され、裁判所の認可決定を経て本件更生会社の共同代表取締役に就任したこと、本件更生会社の更生計画は取締役に対して会社の事業の経営、財産の管理処分をする権利を付与する旨の定め(会社更生法二一一条三項)を置いていないことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、大前、吉田の両代表取締役がその選任の経緯、権限の範囲において通常の代表取締役とは全く異なつたものであることは疑いがない。しかしながら、右両代表取締役が更生計画によつて適法に選任せられている以上、たとえ更生会社の事業の経営、財産の管理処分をする権限を有していなくとも、更生会社の機関たる地位にあることには変りがないのであつて、まして何らの手続を経ることなく当然に管財人の使用人たる地位に就くものではないことは明らかである。従つて、法人税法が、本件の如き代表取締役に対する賞与について、その実質的内容を問うことなく一律に益金に算入すべきものとしている以上(同法二条一五号、三五条一項、二項、五項、同法施行令七一条一項)、本件各賞与金はいずれも同法三五条一項により益金に算入させるべきものといわざるを得ない。従つて、この点に関する原告の主張も失当である。

3  そうすると、本件各処分には何らの違法はないことになる。

四  以上の次第で、原告の本訴請求のうち、二期分の更正処分中、所得金額のうち金四四六六万二二八二円を超える部分の取消を求める訴えは訴えの利益がないからこれを却下することとし、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荻田健治郎 井深泰夫 近藤壽邦)

別表一、二 <略>

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